Project Story プロジェクトストーリー

空洞モニタリング調査・空洞メカニズムの研究 ジオ・サーチ&東京大学

陥没防止の有用な仕組みと体制の検討 藤沢市

官・学・産が連携し、
社会課題の解決に挑む

概要

ジオ・サーチは、地中の空洞化という不可視な現象に対応する最適解を見出していくために、専門的な知識や視点を取り入れた新しいアプローチとして、官・学・産の共同研究を提案しました。

きっかけ

藤沢市内の道路下の地下空間では埋設管の老朽化が進行。それにより多数の路面下空洞が発見されていたため、限られた財源のなかで効率的な陥没対策の実施が求められていました。

STORY

官・学・産が連携し、社会課題の解決に挑む

神奈川県の湘南地域東部に位置する藤沢市。横浜市に隣接し、湘南地域において最大の人口を有する同市では、安全な道路空間の確保が課題となっていました。
市内の道路下の地下空間では埋設管の老朽化が進行。それにより多数の路面下空洞が発見されていたため、限られた財源のなかで効率的な陥没対策の実施が求められていました。
そこで、現状の把握と対策立案に協力したのがジオ・サーチです。ジオ・サーチは、地中の空洞化という不可視な現象に対応する最適解を見出していくために、専門的な知識や視点を取り入れた新しいアプローチとして、官・学・産の共同研究を提案しました。同研究でジオ・サーチは、自社が有する技術を用いて従来の業務では行わないような方法で空洞調査を実施。陥没を未然に防ぐために藤沢市、東京大学と3者で協働することで、日常の暮らしに大きな影響を与える社会課題の解決に挑みました。

全国の自治体においても、前例のない大規模な研究を敢行

202ヶ所――これは本プロジェクトが始まる前に、藤沢市が調べて見つけた空洞の数です(98路線・調査延長300km)。研究前から積極的に陥没対策に取り組んでいた藤沢市は、より効率的な対策を実施すべく、それぞれの箇所に優先順位をつけた上での対処を続行。並行して共同研究体は空洞ができるメカニズムを追求し、道路や下水道の計画に役立てられるデータの取得や分析を通じて、効率的に陥没を予防していく方策づくりを目指しました。
藤沢市、空洞研究の世界的第一人者である東京大学生産技術研究所の桑野玲子教授、ジオ・サーチの3者でプロジェクトをスタート。各者が以下のような軸足を持ち、協働で調査・研究・開発を進めていきました

■藤沢市
調査路線、所轄情報の集約と提供
空洞原因追及調査と補修
陥没防止の有用な仕組みと体制の検討

■東京大学
空洞メカニズムの解明、土槽実験、空洞周辺地盤の土質試験と分析
空洞発生の地域性の評価
陥没ポテンシャルマップの開発

■ジオ・サーチ
空洞モニタリング調査の施行(現地調査および解析・分析)
空洞原因追及調査と記録、考察、情報の蓄積方法の検討

本プロジェクトは、空洞の動きを監視していく継続的な空洞調査のみならず、徹底的な原因追及調査や空洞周辺の土砂分析のほか、土槽実験や地域分析など大規模な取り組みとなります。
官学産共同研究においてもあまり類を見ない、「今」生じている社会課題に即した内容であることに加えて、全国の自治体においても初の試みとなる本プロジェクト。
藤沢市庁内でも、部署の壁を越えて、柔軟かつ積極的な体制で取り組んだことで、うまく連携しながら進めることができました。

空洞の生成と拡大化の過程を知るべく、半年ごとの調査を実施

道路の陥没リスクを決めるのは、路面下に潜む空洞の「数」と「大きさ」です。
これらを知るために、なぜ空洞が生まれるのか、また何をきっかけにしてどのように拡大化していくのかを知る必要がありました。そのため、半年ごとの定期的な空洞のモニタリング調査を2年かけて複数回実施。新しい空洞が生まれるタイミングや、すでに発見された空洞がどのように拡大していくのかといった貴重なデータとともに空洞発生傾向の地域性も得ることができました。

チャレンジの場の創出となったプロジェクトマネジメントと、データ解析の困難を乗り越える

どんなプロジェクトにおいても、課題の一つとして挙げられるのがプロジェクトマネジメントです。前例のない大規模な官・学・産の共同研究において、減災事業本部の瀬良は当時の状況をこう振り返ります。
「ジオ・サーチ社内では公募をかけ、途中加入もあり6名のメンバーが集まりました。プロジェクトが始まった直後は、各者間で細かな確認や調整が発生しました。しかし、3者が東京大学の実験室で土槽実験に立ち会い、全員で空洞が生成される様を見て共有したことをきっかけに、各者が自主的に協力しあって研究を進めるようになっていきました。2年間の研究で、現場出動が18回、投稿された論文は20編にのぼりました。論文執筆にあたっては、ジオ・サーチの若手や中堅社員のみならず藤沢市職員の方もチャレンジされました。研究開始前は半年に一度程度の頻度で想定していた各者間の打合せですが、振り返ると全58回。週に一度以上のペースで行われていたことになります。これに向けた各者内の打合せもありましたので、誰かに言われてやれるようなものではありません。各者が協力しあって前例のないことにチャレンジし、成果を創っていった証です。このようにハイペースでしたので、共同体のコアとなり各者間の情報共有を綿密に図ることでチーム感を強化していくことと、進捗しながら明確になっていくゴールの姿の共有、そして、そのゴールに対して進捗を確かめ合う場を設けることに努めました」。

その道のりは、決して平坦なものではありません。しかし、プロジェクトマネジメントに積極的に取り組み、立場の異なる3者をまとめあげたことが、成果を上げた大きな要因となりました。また現場の調査・解析メンバーにおいても、様々な苦労がありました。
取得したデータから空洞の有無の判別や大きさを解析しますが、これを最終判定まで解析者の目で行いました。前回調査から空洞は増えているか、大きさに変化があるかを、半年に一度というペースで計測し詳細に解析していくことに、解析メンバーやデータオペレーションメンバーの根気強さや正確さも必要となりました。
しかし、このような作業を一つひとつ確実に行っていったからこそ、膨大かつ正しく信頼できるデータが手に入ったと言えます。様々な壁を乗り越えて、少しずつ成果が形となって現れていきました。

陥没ポテンシャルマップも開発、安全対策への大きな一歩を踏み出す

本プロジェクトは、2019年3月に終了。
半年ごとのモニタリング調査により、空洞が増加、拡大するタイミングを詳細に把握できたこと、また空洞原因追及調査や土質分析、土槽実験などから多くの新しい工学的な知見が得られました。また、一連の活動で得られた知見から藤沢市域で陥没が起こりやすい地盤環境/素因を分類・ランク付けし、地図を用いてビジュアル化することで、誰でも直感的に陥没対策の重点エリアを把握できる「陥没ポテンシャルマップの開発」といった成果をあげることもできましたが、2年間の活動を通じて関係者全員が、「空洞を早期発見することが陥没を効率的に予防し、安全に直結する」ことを再認識した結果、研究成果の活用という大きな方向性を定めることになりました。
現在、藤沢市は安全–陥没対策を「市全体の課題」として捉え、関係部署である道路と下水道が連携した体制で取組んでいます。対策の重点エリアが示されたポテンシャルマップをもとに両部門でメリハリのある調査路線や調査頻度を定めるほか、さらには、このマップは下水道の管路長寿命化計画の有効なデータとしても活用されています。藤沢市の効率的な安全対策を目指したプロジェクトでしたが、陥没対策重点エリアのメリハリをつけたことで市の事業費の面でも効率化を図ることができました。

プロジェクトを通して提示できた「社会課題解決の新しいモデル」

様々な成果を挙げることができた本プロジェクトですが、最も特長的なのは、社会課題の解決において、成果を作るだけでなく運用していくことが大切だ、ということを関係者全員が共有して取組み、プロジェクト後に実践されている点にあると考えます。
藤沢市、東京大学、ジオ・サーチという立場が異なる者同士が信頼関係を構築し、それぞれに柔軟かつ積極的な姿勢で取り組んだことで、工学的な知見やノウハウなど確かな成果や事例を生み出すことができました。陥没対策は、すべての自治体が取り組むべき事柄ですから、全自治体の参考になる、これまでにない取り組みを提示できたのではないかと考えています。
藤沢市が掲げるテーマは、「安全で安心な暮らしを築く」。
この経験を糧に、減災を掲げるジオ・サーチも、全国の様々な場所で安全なまちづくりに貢献しています。